中学生の部

優秀賞

ときめきは、いつもそばに
八幡市立男山第三中学校 2年 長谷川 倖大はせがわ こうた

 小学生の頃の話だ。趣味が昆虫採集の僕は、幾度となく近くの山の樹液場に足を運び、クヌギやコナラなどの樹皮の隙間すきまをのぞいたり、木の根元を少し掘ったりして、カブトムシやクワガタムシを捕っていた。そこには、次から次へとハチも飛んでくる。「危険だから近づくな、刺されたら死ぬぞ」と教えられていた僕は、最初はとても怖かった。しかし、次第にかっこいいな、と思うようになった。気づいたら、ハチへの興味で頭がいっぱいになっていた。本やインターネットで調べたり、実際に捕まえて観察したりした。知らないから怖いのであって、知れば知るほど、過度に怖がることはないのだ、ということを学んだ。ブンブンと羽音を立て、樹液場を占領している大きなハチを捕獲する時の緊張感、捕獲できた時の達成感は、他では味わえない。
 いつからか、僕はアシナガバチを飼育するようになった。五月頃、アシナガバチの女王は巣を作り始める。天敵に見つからない場所、雨をしのげる場所を探した結果、民家のベランダや軒下に巣を作ることが多い。見つけた人は、大抵、駆除しようとする。それではアシナガバチがあまりに可哀想なので、巣を見つけては生け捕りにし、自分の家の庭に移し、放し飼いをするようになった。美しい六角形の育房いくぼうを並べ、幼虫を育てる女王バチ。女王バチを助け、巣を守る働きバチ。次世代へ子孫を残すために短い一生を全うするアシナガバチの姿は、とても愛おしく、胸を打たれるのだ。
 しかし、巣が最後まで無事でいられることはまれで、スズメバチや寄生虫などの天敵に襲われてしまう事が多い。失敗してしまった時は、とても申し訳なく悲しい気持ちになる。とはいえ、アシナガバチを襲う虫も、懸命に生きているのだと思うと、責めることはできない。どうすれば良かったのか。反省を次に活かしたい。だから、スズメバチから見えにくい倉庫の裏や木陰に移したり、巣箱を作りアシナガバチだけしか通れないようにしたりと、試行錯誤を重ねている。それでも失敗してしまう。僕はこの時、自然の厳しさを目の当たりにする。と同時に、綿密に考えられたアシナガバチの巣を、なるべく移動せず、温かく見守っていてくれないかと願うのだ。今もまた、駆除してほしいと依頼されてってきたアシナガバチの巣があり、毎日、無事を祈っている。
 樹液場は今日も変わりなく、オオスズメバチや、ここら辺では珍しいチャイロスズメバチなんかも見た。皆、一生懸命に生きている。振り返ると、ハチに興味を持ったことで、僕の価値観は大きく変わった。僕が変われたように、ひとりでも多くの人がハチのことを知ってくれたら嬉しい。僕はこれからも、このような活動を続けていきたい。
 この厳しい自然界の中を、今日もどこかで、たくましく生き抜いているハチに、僕はとてつもなく、ときめきを感じている。

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