中学生の部

佳作

あの場所に、手が届くまで
八幡市立男山中学校 1年 福本 未玖ふくもと みく

 あの舞台に立てる人は限られている。それもたった三人。その舞台の上で笑う人は、とても輝いて見えた。あの光景は、私の水泳人生を大きく変えるものだった。
 今年の春、私は初めて全国というステージに立った。出場する選手同士で、各種目の全国ランキングを決める試合だ。会場に入った時の私は、勝ち負けなど関係なく、ただこの試合に出られたことが何よりも嬉しかった。
 そしてレース直前。自分でも驚くくらい、嬉しさでいっぱいだった気持ちは、次第に不安と緊張で埋め尽くされていった。「一人だけ置いていかれたらどうしよう」「ちゃんと泳げるかな」そういった思いが次々と頭の中に浮かんだ。周りには、ライバルしかいない。一旦落ち着けと、私は自分に呼びかけた。コーチに言われたことを頭の中で何度も繰り返した。ただひたすら、大丈夫、大丈夫と唱えた。そうすることしか出来なかった。
 そんな気持ちのままスタートの合図を待った。泳いでいる間の記憶は、あまり覚えていない。結果は望ましいものではなかった。初めての全国大会、緊張と不安の気持ちで、私のレースは終わった。
 そんな私を置いて、試合はどんどん進んでいく。各種目の予選が終わり、気がつけば自分の種目の決勝が始まるところだった。入場してくる選手たちは、みんな堂々としている。
 「この中の誰かが、あの舞台に登れるんだ」
 そう思いながら、表彰台に目を向けた。
 レースが終わり、表彰式が始まる。三位、二位、一位……。名前を呼ばれた選手は、メダルと賞状を受け取っていく。最後の一人が表彰台に登った時、とても大きな歓声と拍手が起こった。その熱気が伝わり、私は思わず深呼吸をした。会場のライトを反射し、キラキラと輝くメダル。大きく掲げられた賞状。たくさんの声を浴びながら笑顔で手を振る選手。その姿は、とても華やかなものだった。その時の私は、未熟ながらもその姿に憧れた。あんな風に自信を持ちたい、あんな風に笑いたいと、心の中で願っていた。
 どれだけの月日が過ぎても、この憧れは無くならない。それだけは、なぜかとても自信があった。
 あれから約半年。まるで花が咲いたような満面の笑みと、掲げられた賞状とメダル。あの光景は、今もくきりと覚えている。
 思い返しているのも束の間。この夏の、全国大会が始まろうとしている。春のリベンジ。そして、あの時の憧れと夢のような舞台をつかむための貴重な試合だ。もう、あの時の自信がなかった私じゃない。この夢のために、できることは精一杯やった。だから大丈夫。そう思うことで私は自分に自信を持てた。もう諦めない。後悔はしたくない。あの場所に、手が届くまで、私は、頑張ることをやめない。

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