小学生の部

佳作

貴重なようで貴重じゃない
八幡市立美濃山小学校 6年 新越 悠音しんこし ゆのん

(だれが呼ばれるのかな)
 周りはとても静かだった。まるで時が止まったようだ。みんな一言も言わず待ち続けている。さっき使った手はひどくつかれていた。
 今はそろばん大会の結果発表中。下の学年の人達の順位が発表されている。
(次か。去年おしかったんだよな。今年はどうなるんだろ)
 そんなくだらない一人言。ずっと心の中でくり返していた。しかし、次のしゅんかん、その一人言も消えた。一位の名前……。となりの人の目線が自分に向いた。
「え」
 でてるのかも分からないほど小さな声。頭が真っ白になった。初めてだった。家にあるかがやきをはなっている宝物。それらは全て、「二位」や「三位」ばかり。目に入るたびやる気がわいてくる。でも、あと一つ足りなかった。ずっと、一番ほしかった数字。何よりも本気にさせてくれるもの。
 呼ばれてすぐ立ち、歩を進めた。やっともらえるのだ。前にある光りかがやく宝物。その中でも最高に目立ち、一人しか手に入られない数字。うれしさときんちょうでいっぱいだったが、私の頭には新しい考えが出てきた。
(今年いけたなら、来年もいけるかも。その次の年も……)
 バカみたいな考えだ。とれない人の方が多いのに。
 でも、今もあの考えでがんばっている自分がいる。自信を持てるようになった。失敗しても笑えるようになった。あのころを思い出すと、自分はまだ成長しきっていないと感じさせられる。貴重な経験だ。けど、そうでもないのかもしれない。いつ、自分が成長しきるのだろう。しきったらもうバカな考えは出てこなくなるのか。そんなことも思いつつ、またあの考えが、今も出てくる。

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