中学生の部

優秀賞

そして古着は海を渡った
市川学園市川中学校 1年 渡辺 美羽わたなべ みう

 小学六年生の最後、学校で行ったグローバルシティズン活動として、古着をパキスタンに送った。これは日本のNPO団体を通じて行われ、善意で集められた古着や雑貨は国内で物資を必要としている人やパキスタンの貧困層に寄付される。パキスタンは政治的に不安定で、国民の多くは貧困層であり、子供達は満足な食事が得られず、着る服や靴なども限られているそうだ。
 他の学年のクラスに行き、古着の寄付を呼びかけた。多くの生徒とその家庭がこの活動に賛同し、古着やスーツケース、毛布など沢山の寄付は教室を埋め尽くした。コロナ禍で自宅時間が増えたためか不用品の整理が進んでいたことで、今までにないくらい多くの寄付が集まった。
 冷たい東京湾の海風がほおこおらせる中、クラスメイトとともに何度も教室と衣類を運ぶトラックとの間を往復した。白い息を吐きながら、最後にNPO団体のスタッフとクラスメイト全員で撮影した写真が、今も机の上に飾ってある。私たちにとっては必要なくなった古着でも、どこかで誰かの役に立ってくれる。そんなわくわく感に疲れ切った腕も足も気にならず、みんなで大きな笑顔とガッツポーズで撮影した写真だ。
 この夏、パキスタン国境が難民達であふれかえる映像をテレビで見た。最後の米軍輸送機に乗り込めなかった人々は、それでも自由を求めつばさにしがみつき、飛び立つ飛行機から地面にたたきつけられ亡くなったりした。アフガニスタンの情勢が一変し、米軍撤退後タリバンが国を支配したため、十万人以上もの難民が隣国パキスタンに平穏を求め移動しているそうだ。イスラム原理主義勢力のタリバンが首都を制圧したことで、何もかもを残し、恐怖と不安、緊迫だけを抱え、大人も子供も国外に逃れようと必死だ。その映像を見て、私たちは同じ人間なのに、生まれついた場所が違うだけで命の危険もある困難な環境にある人が、沢山いるということに改めて気づいた。
 テレビの画像を通してしか知ることのできない、手を差し伸べてあげたくても、決して届かない遠い国。穴だらけの服で泣きながら歩く子供達を見ていると、胸がぎゅっと絞められるような辛い気持ちになった。
 そのとき、私はふと机の上の写真とパキスタンに送った古着のことを思い出した。あの古着はもうパキスタンに届いているのだろうか。海を越え、パキスタンに渡った私たちの古着がアフガニスタンから来た難民達にも届いてくれれば、きっと少しでも暖かくこの冬を過ごせるよう役だってくれるに違いない。
 私たちの行った善意の活動が、テレビの中の難民の子供達とつながった。とても小さな「つながり」ではあるが、私はとても誇らしく感じた。この小さな「つながり」を長い「つながり」に育てていきたいと今、強く思っている。

戻る
@無断転載はご遠慮ください。