一般の部

佳作

「好き放題に生きる」
大阪府大阪市 宮本みやもと みづえ(76)

 七十五歳になった朝、二人の娘と妹からおめでとうのLINEがきた。
 いつもそばで「おめでとう」と祝ってくれていた夫は、四年前に病死した。
 夫がった後で、私は娘達にこう言った。
 用事以外は連絡しないでほしい。
 生きてる? の確認はひんぱんにしないで。
 体に不安を感じたら、その時は甘える。
 二人が温かい気持の娘ってわかってるから。
 まだまだ言ったが忘れた。
 娘達には生活がある。
 私が負担をかけるのはまだ先だと信じたい。
 人に後ろ指をさされない範囲で、
『好き放題に生きる!!』
 と決め、娘達にも納得させた。
 私はまず身辺整理をした。
 家具は全部処分し、自分で持てない物は今、冷蔵庫と洗濯機のみ。
 そして家賃の安いハイツのワンルームに引っ越した。処分はずっと続けている。
 私の大切な思い出の品は子供にとってゴミ。
 いくらゴミでも母親の物は捨てにくいだろう、と私が捨てておく。
 国からも後期高齢者と太鼓判を押された、気分の悪い誕生日。
 いつもいつも子供が少ないのに年寄りが多いと言われ続け、しかも、ここ数年は団塊の世代がドーンと後期高齢者になり、人口の何十パーセントが年寄り、と嫌な言われ方。
 以前、小池真理子さんが小説の中で、
   ナメクジが出てきて塩をかける。
   ナメクジは小さくちぢんで塩に
   うもれて見えなくなる。後始末
   がいらなくていい。どんなに
   せいせいするだろう。
 みたいなことを書いていた。うろ覚えなので違うかも知れないが、私もこんな風に……と共感した。今もそう思っている。
 邪魔者扱いするな!! とひがんでいる私。
 ムシャクシャするし、節目である七十五の誕生日の自分に何か買ってやることにした。
 夫が亡くなってから食べ物以外買ってない。
 十年以上前、一年に三台も自転車を盗まれ、腹が立って、頭にきて、歩くことにした。
 私の誕生日は八月。暑すぎる。
 そうだ、自転車を買おう!! と近くの自転車屋さんに行った。
 瞬時に決めたのが、深緑色の折りたたみだった。前カゴも後ろの荷台もない。
 婆さんらしく、足が地面に届くようにサドルを低くしてもらった。見映みばえが悪くなり、乗るのは婆さん。自転車に悪いな、と思う。
 十年以上全く乗ってないので不安だったが、スイスイ走れた。
 自転車置き場には止めない。エレベーターに乗せて狭い玄関に置いた。
 その後で心配になってきた。
 娘達にしかられるかもと。
 車の免許を持ってる人は返納を考えるとしに、私は自転車を買ってしまった。
 だから内緒にした。来る、と連絡があればベランダに出してカーテンを引く。
 半年以上隠していたが面倒くさくなり白状したら、叱られなかったが心配された。
 細心の注意を払って乗ろう。
 まず大好きな飛行機を見るために、伊丹いたみ空港に向かった。
 まず尼崎あまがさきに行き、伊丹方面に向かう。
 そこからは飛んでる飛行機を見て空港の方向を確認する。着いた。
 着陸寸前の飛行機を真下から見る川土手。
 着陸寸前の飛行機を真横から見るコンビニ。
 何時間見ていても飽きない。
 往復五時間を走り、次の日の足を心配したが、平気だった。
 調子に乗って、大阪城や通天閣、スカイビルにも行った。自転車は便利で楽しい。
 四月にブルーインパルスが万博に来る!!
 小雨の中を自転車で会場近くに行った。
 晴れるかも知れない……と期待して。
 雨は止まずに中止。往復五時間、雨の中を自転車をこいだ私。心の中は土砂降りだった。
 そして七月十二、十三日とブルーインパルスがやって来てくれた。
 会場には入らないが、二日続けて見た。
 六機揃って大きな輪。一機がそれぞれ小さな輪。二機で
 かわいいハート型。
 感動で涙が出た。
 独りで好き放題に生きる!!
 そう決めた私に、嬉しい贈り物を頂いた。
 いつか自転車を折りたたんで、それをかついで、関西を飛び出して走ってみたい。
 そんな婆ちゃんになりたい。

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