中学生の部

佳作

意味
高知県立高知国際中学校 3年 吉良川きらがわ 柚帆ゆずほ

 「勝ちたかったよ。でも、それ以上に、意味がほしかった」
 あのとき彼女が言った言葉を、私は今も忘れられない。
私は昔も今も運動とは無縁の生活を送っている。でも、あの試合の日の記憶だけは、心のどこかで息をしている。
 彼女は小さいころからずっとバスケットボールを続けてきた。地元のクラブに通い、何年も何年もボールを追い続けていた。一方、私は運動音痴おんちで、プレーの何がすごいのかも正直ちんぷんかんぷんだ。それでも彼女の努力やくやしさは、そばで見てきたから知っている。
 眠そうに目をこすりながら朝練へ向かった日、泥のように疲れて帰ってきた日、体育館の裏で声を殺して泣いていた日。私にできたのは話を聞くことくらいだったけれど、それでも彼女の11年分の汗や涙は、私の中にも少しだけ積もっていた。
 最後の大会の前夜、彼女は私にのなくような声で「来てくれる?」と聞いた。何も迷わずうなずいた。でも、それがどんな意味を持つのか、そのときの私はまだ知らなかった。
 試合当日、体育館の空気はなまりのように重く、観客のざわめきすら遠くに聞こえた。彼女はいつものように走っていたけれど、どこか張りつめた感じで、今にも弾けそうな風船を見ているようだった。スコアはじりじりと開いていく。第4クォーターで彼女のシュートはリングに弾かれた。乾いた音がやけに大きく響き、胸の奥に沈んだ。ベンチに下がるとき、一瞬だけ顔を伏せたけれど、それ以上は何も見せなかった。
 試合終了のブザーが鳴り響いた。スコアは負け。味方の選手たちは次々と涙をこぼし、まるで赤子のように泣きじゃくった。でも、彼女だけは泣かなかった。ただ静かに、じっとコートを見つめていた。その横顔は不思議なほどりんとしていた。
 帰り道、私たちは並んで歩いた。風が強くて、彼女の髪がなびき、何度も彼女の顔にかかっていた。思わず口をついて出た言葉は「悔しくないの?」。彼女はほんの少しだけ笑って、「うん、悔しい。でも、それだけじゃないの」と言った。
 そして続けた。
「勝ちたかったよ。でも、それ以上に、意味がほしかった」
 あの空間で彼女の声だけは風になびかず、ひたすらまっすぐだった。
 勝ち負けじゃない。彼女は、これまでやってきた日々が、ただの過去にならないように、「意味のあるもの」として終わらせたかったのだ。あれだけ努力した日々を、意味があったと自分で思えるように。そうやって、終わらせようとしていた。
 私は今、何かに本気で向き合えているだろうか。意味があるかどうか、自信が持てなくなることばかりだ。でもあのときの彼女の姿を思い出すと、意味は与えられるものじゃなく、自分でつくるものだと思える。
 静かに、凜と立っていたあの横顔が、今も私の背中を押してくれる。

戻る
@無断転載はご遠慮ください。